鬼女たちのくすぐり奴隷

第1話 捕らわれた男

どれくらい意識が途絶えていたのだろう。

重い瞼を開けて最初に見たのは無骨な石の床だった。

周囲の異様な熱気と騒がしさに俺は何事かと辺りを見回そうとして、自分が不自然な体勢のまま動けない事に気付く。

「う、腕が……………?」

両腕が頭上で縛られたまま下ろせない。

「くそったれめ。」

毒づきながら俺は抜け出そうとするが、両手の拘束は解けず身体は吊られたままだ。
捕らえられたのだろうか。

「目が覚めたのね。」

女の声がして、細い指であごを掴まれ無理やり顔を上げさせられる。
知った顔と目が合い、思った通り最悪な状況だったと判った俺はもう一度 「くそったれめ。」 と毒付いておく。

目の前の女は人間ではない。

鬼女特有の赤やピンクといった派手な髪から見える二本の曲がった角。
悪趣味だが男を惑わせるには効果的であろう肌を大胆に露出させた服装。
さっきまで俺の獲物だった鬼女だ。
巣に逃げ帰ろうとするこの女を追跡して本拠地を暴き、仲間と共に一網打尽にするのが俺の仕事だった。
だがどうやら俺はしくじり、ここに捕らえられたらしい。

鬼の女が美貌を醜悪に歪め、馬鹿にしたような顔で俺を見下ろしている。

「悔しがる猶予くらいあげるわ。自分の無様な格好をよく見てみる事ね。」

そして今気付いたのだが俺は膝立ちだった。
両手だけでなく両脚もベルトで固く拘束されており、脚を広げて地に膝をつけたまま動けなかった。
必然的にこの女から見下ろされる形になる。

「形勢逆転って訳か?貴様のドヤ顔が腹立たしいな」

「まだ自分の立場が理解できていないのね、可哀想に。」

鬼女は余裕を崩さない。
恐らくここが奴らの巣なのだろう。

「これからお前を待っている運命がどんなものか想像する猶予も与えてあげる。」

女の後ろには阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
あちこちで嬌声のような叫び声が上がっており、そのどれもが哀れな人間の男のものだ。
ここは地下なのだろうか、
窓のない石造りの大部屋。そこに様々な趣向を凝らされた拷問器具や拘束台が所狭しと並び、
それらに捕われているのは各々違った屈辱的なポーズを強要されて動くことも許されない裸の男たち。
男たちは年齢も様々で、がっしりした体躯の壮年の男もいれば、年若く色白の青年もいる。
驚いた事にまだ小さな少年もいたが、彼女たちにとってそんな事は考慮に値しない。
彼らの身体には大勢の鬼女が思い思いに群がり、我先にと腰にまたがり、舐め回し、いやらしく指をくねらせ愛撫していた。

捕らわれた男たちを性的にいじめ抜く事は彼女たちの娯楽だ。

快楽に、あるいは苦悶に顔を歪め、我も忘れて思い思いの叫び声を上げている男たちを紅潮した顔で無慈悲に責める鬼女たち。
周囲にも同じ様な姿の鬼女が大勢いる。
テーブルで飲み食いしながらけらけらと笑って見ている者や、
ときたま我慢できず自分も責めに加わる者、
気に入った男を奪い合っている者もいた。
賑やかに打楽器が打ち鳴らされ祭りの様相を呈した熱狂ぶりだったが、男たちの有様は悲惨の一語に尽きる。
抵抗できぬまま鬼女達から多くの指や舌、道具までも使われ無理やり何度も射精に導かれた事で、血の混じった精を放ちながら号泣し命乞いをする男。
馬乗りになり一心不乱に腰を振る鬼女の下で、無骨なベッドの様な鉄製の台に大の字で拘束されながらひぃひぃと喘ぎ、殺して下さいとうわ言のような懇願を繰り返すだけの男もいた。

「大抵の男はこれを見て恐怖して泣きわめくのに、動揺も顔に出さないとは大したものね。」

起き抜けに俺が絶望を顔に貼り付けるのを期待していたのだろうか。まったく趣味が悪い。
人を人とも思わぬ許されざる行為だが鬼女というやつは皆こんなものだ。

あまりと言えばあまりの状況だが、ここにきて取り乱すまでいかなかったのは、荒事の得意な俺は以前にも何度かこのような場所に出くわした事がある為だ。
もっともその時の俺は、巣を制圧し捕らわれた人間達を解放してやる立場だったのだが。
今の俺はと言えば、他の男たちと一緒で衣服はすべて剥ぎ取られ、膝立ちで両手を頭上に吊られるという情けない格好のまま四肢を拘束されて動けない。
側から見たらさぞ滑稽だろう。

女が俺のあごに指を這わせてくる。

「でも、そんな強気もここでは何の役にも立たないわ。」

敗北。
認めたくはないが俺とこいつの立場が逆転してしまった事実が、その二文字を浮かび上がらせ納得させようとしてくる。

「お前の人生はもう終わったのよ。人としての生はね。」

彼女はつまらないものを見る様な、見下し切った目で見てくる。
だが目線が俺からじっと動かないのは、執着があるのだろうか。
目の奥に嗜虐と好色が混じっている気がした。
なんにせよ俺に対し生殺与奪の権利を握る強者の余裕が伺える。
少し前まで彼女が俺に向けていた天敵としての警戒や憎しみの目はもう無く、ご馳走、あるいは新しい玩具を見る目だった。
お前もこれから彼らと同じ運命を辿るのだとでも言いたげだ。

だが。

「自分の立場が分かってないんじゃないのか?お前らが俺の命を握ってるんじゃない。俺がお前らの命を握っているんだ。」

自分の優位を疑わないこの女に言っておいてやる事にする。
「俺の仲間たちはまだここを探しているだろう。いずれここは暴かれるぞ。その時に俺が生きているか死んでいるか、あるいはどんな扱いを受けたかでお前らの処遇も変わってくる。せいぜい口の利き方に気を付けるんだな。」

しばしの沈黙。
少しは狼狽を見せるかと思ったが女は何の反応も返さなかった。
正直半分ははったりである。
人間の敵とは違い、この仕事で敵に捕まるって事は大抵死んだって事と変わらない。
だがさっさと殺しておけば良いものを、慰みものにしようというのだ。
生温い選択をした事は後で必ず後悔させてやる。

気にした風もなく女が口を開く。

「お前みたいに強気な口を叩く人間は今までにも居たけどすぐに無様に命乞いをする様になる。やがて殺して下さいと懇願するようになる。最後には私無しでは生きていけなくなる。 気骨のある男はむしろいじめがいがあるわ。さて、ちょうどあっちのお仲間も起きたみたいだから、そろそろ始めるわよ。」

「ううっ・・・ここは・・・?」

聞き覚えのある声に俺は右の方を見る。
討伐隊の仲間の一人が、俺と同様に裸で捕らわれていた。
彼は最近仲間入りしたばかりの新人の青年だ。

「おはよう、遅いお目覚めだねぇ?」

「くすくす、準備も揃った所だしそろそろ私たちも待ちきれなくなっちゃったわ」

「さぁ、今からたっぷりと遊んであげるからね。」

俺と違うのは、彼は黒く無骨なベッドに仰向けに寝かされ四肢を拘束されていた事。
両腕は万歳の形で手首から肘までを、両脚は強制的に大股開きにされて足首から膝までを何本ものベルトで厳重に固定されていた。
一体何をするつもりなのか。
複数人の鬼女が彼を取り囲み、起きたばかりの顔を覗き込んでニヤニヤと笑ったり、彼の呑気な寝起きを揶揄したりしていた。
俺よりも年若い彼の方が鬼女たちの注目を集めている。
童顔で甘いマスク、バランスよく鍛え上げられているが戦闘経験が無いため傷も少ない綺麗な肌。
こいつら好みなのだろうか。
若く新米の彼にとって、いきなり理解を超えた状況だったらしい。
困惑と混乱隠さぬまま鬼女たちに説明を求めていた。

と、ふいに下腹部に生温かい感触。
意識を戻すと動けない俺の剥き出しの股間に鬼女が何かの液体を手で塗り混んでいた。
ゆっくりと丁寧に、しかし弄ぶような手つきで陰茎に、睾丸に液体を塗られるのを感じた俺は次の瞬間に股間が熱くなり急激に勃起していくのを感じた。
射精を求めて、もどかしく切ない甘い痺れが下腹部をたちまち支配する。

「この薬は私たちの信仰する女神からの賜わり物よ。神木の樹皮から採れる妙薬なの。」

「毒じゃあないから安心しなよ。戦士が増強に使う栄養剤でもあるんだ。でもこれをお前達の大事な所に塗ってやると、ほら・・・ぎゃははは」

つまりは媚薬、催淫剤の類としても使われる訳か。
隣の若者も鬼女たちから同じ薬液を股間に塗られ、彼のモノは大きくそそり立っていた。
面食らい狼狽える彼の反応にどっと鬼女たちの笑いや歓声が起こる。
追い討ちをかけるように鬼女の1人が彼に向かって一語一語ゆっくり宣告するように説いていた。
ここではお前の意思など無視され私たちの慰みものとして死ぬまでここで娯楽の道具になるのだ、と。
彼は仰向けのまま必死で抜け出そうとギチギチと拘束具を鳴らすが、やがて諦めると自分を取り囲む鬼女たちをなじり、今すぐ解放するよう叫んでいた。
だが全ては恐ろしい現実からの逃避だ。
そんな威勢のいい抵抗はほどなく終了すると知っている鬼女たちは、彼の反応を面白そうに観察している。
勿論その間も彼の股間はずっと大きくさせたままであり、鬼女たちの嘲笑をより誘った。
何が起こるのかはだいたい知っている。
俺たちを精の尽き果てるまで搾り取ろうと言うのだ。
俺の目の前に立つ女がやがて口を開いた。

「期待を裏切って悪いけど、精を搾り取るための奴隷はもう間に合ってるのよね。」

別に期待などしていない俺は何も返さず黙った。

「例えばあそこにいる美しい人間の男、あれは異国から連れて来た皇族の一人で、ここ最近で一番の上玉。」

鬼女たちに群がられて良く見えないが、涙を流しながら体液まみれになり気絶している金髪の男が拘束の鎖を外され部屋の外へ担がれて行くのが分かった。

「お前たちは、いじめる専門の奴隷にするわ。」

俺はごくりとつばを飲み込む。
股間がさっきからうずいて仕方ない。射精したいと訴えてくる。
だが精を搾り取るのではないならこれは何だ、嫌がらせか。

「何をされるのか不安そうね?心配しなくても今から身体に教えてあげるわ。」

言うなり両手をこちらに伸ばす。

「こうするの。」

一体何をされるのかと身構えていた俺に予想外の刺激。
おもむろに目の前の鬼女が俺の脇腹をくすぐり始めたのだ。

「んなっ!?くっ、・・・くははぁっ」

突然のくすぐったい刺激に変な声と笑いが自分の口から出てしまう。
構うことなく女は両手の指を使ってこちょこちょ、ぐりぐりとしつこく脇腹をくすぐってくる。
俺は両手を吊られた状態で身をよじってこの刺激から逃れようとするが、
右に左にくねくねと曲がるしかない俺の身体に追従する様にコチョコチョと、あるいは逃げられないよう脇腹を掴むように十指を食い込ませてグリグリと、
彼女はくすぐる手を一切休めず動かし責め立ててくる。

最初こそからかわれているのかと思ったが、そんなレベルを超えたくすぐったさに俺は訳もわからず笑い続けた。
笑いながら言葉にならぬ言葉で、何でこんな事を、と訴える。

「お前たちは、くすぐりでいじめる為の奴隷なのよ。」

苦しい。くすぐったくてたまらない。 脇腹を激しくくすぐられる苦しみに俺が返事をする余裕もなくなるのを見て、鬼女は脇腹をくすぐる手を一旦休める。
俺は荒く息をつきながら

「ふざっ…けてるのか!?」

と言い返すだけで精一杯だった。 女は

「お前はくすぐりの恐ろしさが解っていないようね。」

と言うと再びその両手の指を脇腹に添えた。脇腹がビクリと震える。

「でも納得する必要なんか無い。これからたっぷり時間をかけて私たちの指で教え込んであげるから身体で理解なさい。」

F/Mくすぐり定食